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    2008年5月30日金曜日

    夜愁

    『夜愁』 サラ・ウォーターズ(著) 創元推理文庫

    1947年、ロンドン。第二次世界大戦の爪痕が残る街で生きるケイ、ジュリアとその同居人のヘレン、ヴィヴとダンカンの姉弟たち。戦争を通じて巡り合った人々は、毎日をしぶとく生きていた。そんな彼女たちが積み重ねてきた歳月を、夜は容赦なく引きはがす。想いは過去へとさかのぼり、隠された真実や心の傷が静かに語られていく。

    『半身』『荊の城』と続いたヴィクトリア朝時代のロンドンから舞台は近代へ移ったことで、時代背景からくる背徳的な独特の雰囲気が薄れた感がある。また終戦前後の混乱期を生きる登場人物の逞しさからか、前作までと違い夜の闇が濃くなく、澄んでいて切ない。
    作品の雰囲気が変わったことで著者の持つ魅力が薄れたとは思わないが、少し違和感を感じたのは事実。群像劇だと理解しつつも、物語の終着点を探しながら読み進めたせいかもしれない。徐々に過去へと遡りながら、最終的に出発点に帰着することで不思議なカタルシスを得たが、結局現在の混沌は何も解決しておらず不条理感一杯だったりする。
    無理な例えかもしれないが、死ぬ間際に見る人生のフラッシュバックで最後に誕生の瞬間を見るような感じだろうか。

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